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秋の食い倒れ旅〈大阪・明石・鳴戸編〉

我々の遅い夏休み初日、我が街、西荻窪から車で移動すること6時間。「四国に行くまで、取りあえずのワンクッション」と前期高齢者のドライバー、シェフ金子の一言で、やって来たのは天下の台所、食い倒れの街、大阪です。


大阪と言えばたこ焼き、お好み焼き、うどん、串カツなど「粉もん」を中心に頭に思い浮かべるわけですが、「これで一食分っていうのはちょっと…」という我儘なシェフ金子の嗜好から、日頃ほとんど食べることのない「お好み焼き」で食い倒れてみたくなりました。


初心者の我々は、散々悩んでつまみをちょこちょこと頼み、お好み焼きやら初体験のねぎ焼きやらを食べ、「ああ、これはまさに居酒屋さんの感覚なのか」とビールやサワーをあおります。活気ある店内を見渡すと、皆さん迷うことなくメニューを組み立てて注文し、慣れた感じでお好み焼きを食べている。


「ねえ、皆、ベランダ(ベテランのこと)じゃない?」「お好み焼きは大阪人にとってまさしくソウルフードだな」と、誰だって知ってることをあたかも自分たちが思いついたように語り合いながら、なにわの人々の中に紛れて初日の夜は更けていきました。


さて2日目、いざ四国へ!というところで「Bonne idée!」…我ながらものすごくいいことを思いつきました。


「明石へ寄って、憧れの『明石焼き』を食べよう!」と、やって来ました明石です。


以前、食べ飲み仲間である兵庫県出身の料理家の友人に「私、明石焼きって食べたことないから食べてみたい!」と言ったところ、「明石焼きってたこ焼きとは全く別物。粉ものというより、卵料理と思った方がいい」と教えてもらいました。それを聞いてますます、憧れは増すばかり!


確かに現地では明石焼きという呼び方はせず、「玉子焼き」とメニューにありました。並ぶのをすこぶる苦手とする我々が、10時半開店のお店に10時から並んで待つこと50分。


人生初の明石焼きを食べ、あまりの熱々ぶりに2人して上顎をしっかりやけどしてしまうという痛い目にったわけですが、50分並んでも、たとえ上顎をやけどしても、「だし汁につけて食べるこのセンス!明石焼き、最高!」と思える。旅って何とも人を寛大にさせるものです。


計らずとも兵庫県を訪れて、ひとつ訪問県を増やした我々が向かったのは、淡路を通過して徳島県の鳴戸です。


慣れない観光などをして、ちょっとばかり鳴戸を知った気分になり、2日目のお宿は、いつかは行きたいと思っていたけれど「ものすごく遠いし、ずいぶん贅沢だし、無理かなあ?」とあきらめていた憧れのホテルです。


全く認めたくはなく、不本意この上ないけれど、今年、還暦を迎えてしまった私は「お祝いでもしなきゃやってらんない」と考え、思い切って宿泊を決めたわけです。


思い起こせば5年前、シェフ金子が私に何のことわりもなく「俺の還暦祝い」と称して勝手に車を買い替えたので、それを考えたら私の還暦祝いなんて本当にかわいいものです。



さらに、亡くなった友人からもらった「そのうちなんてない」という言葉を大切にしようと決めた我々です。もう、思い切っちゃいました。結果、それはそれは素晴らしい贅沢な時間を過ごすことができました。真のホスピタリティーというものを教えていただきました。「頑張って労働してまたここに来よう!」と 心に誓った次第です。


ホテルの方曰く、「日本一多い朝食、完食できたのは2割くらい」。それを聞いてメラメラと闘志を燃やす我々。ズラリと並ぶ圧巻の朝食を「お昼はうどんだから、朝はしっかり食べた方がいい」と自分たちを正当化しながら、完食!



こんなこと自慢したって誰にほめられるわけでもなく、表彰されるわけでもないけれど、何とも言えない達成感に満ちあふれ、憧れのホテルを後にしました。「お昼はうどん」…そう、3日目に我々が向うのは最強のうどん県、香川です!(続く)


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