「普通のものをちゃんと作る」。我々がサンルスーをオープンしてから約27年、いちばん大切にしてきたことです。
シェフ金子、「俺は自分が食べておいしいと思うものを作る」と言って、自分の中で「違う」と思うことは一切しません。あまりにも頑固で不器用で、一緒にやっているこっちはたまったものではないと思いながら、これが今までお店を続けることができた最大の理由だと思っています。
我々にとっての「普通のもの」……言い換えれば、フランスに昔からあるお料理で、ビストロの定番と言ってもいいのかもしれません。
パテ・ド・カンパーニュ、オニオングラタンスープ、スープ・ド・ポアソン、キッシュ・ロレーヌ、鴨のコンフィなどなど……。我々はどういうわけか、こういう「普通のもの」が好きでたまりません。
フランスでも日本でもアレンジされていない、基本に忠実な、そんなメニューを置いているお店に、つい足が向いてしまいます。
同じ商売人として、流行に左右されず、頑なにこういう定番モノを作り続けている料理人の方々の、ベースをきちんと持った技術力や信念にいつも「すごいな」と頭が下がる思いです。
シェフ金子に言わせると「時代によって流行や傾向があるけど、昔からあるものは決してすたれることがなくて、存在理由があって、純粋においしくて、それが俺にとってはなんとも言えない魅力。そういうものを作っていきたい」と。私も同じ気持ちです。
平成生まれながら、スーシェフ香田もまた、なぜかこういうものが大好きです。私から見て、料理人のタイプとしてはシェフ金子と全然違うけれど、定番モノを大切にしていきたいという強い気持ちは、同じ血が流れているかのよう。マイペースでのんびり屋のシェフ金子の「引き出し」から、「普通のもの」を引っ張り出そうと一生懸命です。
「シェフは私に何を語りかけているんだろう?」といった、考えさせられる料理ではなく、何も考えなくてもただ単純においしい普通のものを、大切に丁寧に作り続けていきたいと思っています。
「普通」の代表格、オニオングラタンスープも、寒さの厳しいこの冬、復活しました。先日、ずっとオニオングラタンスープを待っていてくださったお客様がご来店くださいました。
「俺にとって世界一のパテカン(パテ・ド・カンパーニュ。シェフ金子の最も得意とするものです)と渾身のオニグラ(オニオングラタンスープ。スーシェフ香田が全身全霊を込めて作っています)をありがとう! これは俺の気持ち!」とおっしゃって、なぜか節分用の豆をポン!と置いていかれました。節分の2日後のことでした。
営業後のお疲れさんの一杯の時にこの豆をポリポリと食べながら「やっぱり普通のものを大切にしなくちゃ」と改めて痛感した一夜でした。
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