我々は軽井沢が大好き。コロナ前までは、真夏と真冬を除いてほぼ月2回、軽井沢を訪れていました。
この地に足繁く通う一番の目的は、「軽井沢野菜」の買い出しです。自然豊かな長野県には、いたるところに野菜の直売所があり、新鮮で安くて種類豊富な野菜たちを見ていると「やる気が出てくる」とシェフ金子、普段からは想像もつかないセリフを発します。
ある直売所では、農家の婦人部の方が順番に店に出て売り子をしています。ちりめんキャベツをいくつも買うシェフ金子に「ねえ、これ、どうやって使う? お客さんに聞かれるんだけど、わかんないさー」と、自分が作っておいて、使い方のわからないおばちゃんたち。なんだか私の故郷の沼津の言葉にアクセントが似ていて、癒されます。
「テリーヌとか、煮込みとか……」元来口下手で、その調理法について全く気の利いた答えが返せないシェフ金子の言葉に、「聞く相手、間違ってませんか」と思う私。
しかし、おばちゃんたちの質問はおかまいなく続きます。「じゃ、このカブみたいのは? どうしたら一番旨い?」と、そこにあった西洋野菜について聞かれると、「俺、コールラビってあんまり好きじゃないんだよね」と、ますます気の利かないシェフ金子。
「おばちゃん、この人に聞いても無駄だってば!」と心の中で叫ぶ私をよそに「そうなんだよね、あんまり旨くないよね、これ!」と、自分たちの売り物なのに、おばちゃんもまるで他人事です。
なんだかまとまりのない野菜談義、でも、こういうほっこりするやりとりが楽しくて、軽井沢通い、やめられません。
我々がなぜ、こんなに軽井沢通いにこだわるのか、それは若かりし頃の修業の地であったフランス・ロワール地方によく似ているからなのです。何が似ているのか……それは「匂い」。緑豊かな木々の香りや空気が、とんでもない田舎だったロワールの村にそっくりなのです(余談ですが、我々の勝手な思い込みでは、京都市内はパリにそっくりです)。
普段は夜型で、朝なかなか起き出すことのできないシェフ金子、軽井沢に来ると全くの別人となり、朝5時に起きて、ゆっくりと1時間散歩をします。
鳥のさえずりを聞いて「あぁ、俺は幸せだ……」これが軽井沢にいるシェフ金子の口癖です。ずいぶん簡単なことに幸せを感じるものです。
ちなみに軽井沢でフランス料理店を営んでいる、我々のロワール地方での修業仲間だった盟友は「鳥の鳴き声がうるさくて仕事に集中できない」とよくぼやいていますが。
高級リゾート地のイメージが強い軽井沢ですが、我々にとってはちょっと違います。豊かな自然の匂いに懐かしいロワールを思い出し、都会のサービスとはまた違った、人間味あふれる地元の親切なおばちゃんたちとのやりとりに心底癒される場所。
東京ではお店が休みでも常に仕事と時間に追われている自分たちが、心から解放され、ゆったりのんびりとした時間を過ごせる貴重な場所なのです。
あ!それをリゾートと言うのでしょうか?
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