ここ最近、コロナによるいろんな制限が緩和され、人々の生活も少しずつ元の調子に戻りつつありますが、食材等の仕入れの支障はまだまだ残っています。業者さんの体制もかなり変わりました。
「やっと普通に営業できる」と安堵したのはほんの一瞬のことで、コロナに加えて気候変動、原油価格の高騰、ロシア・ウクライナ情勢、円安、鳥インフルエンザなどさまざまな問題が、束になって襲いかかってきています。サンルスーをオープンしてからもうすぐ27年、こんなに激しい値上げラッシュと品不足は、経験したことがありません。
業者さんが申し訳なさそうに通知を持ってきたり、「重要なお知らせ」と書かれた郵便が届いたりすると、「またですか?」とビクッとします。それは100%、値上げか納品停止のお知らせです。ワイン業者さんも「入荷するたびに数百円単位で値段が上がっているので、リストの作成が追いつかない」とぼやいていました。
チーズも、選べる種類は従来の1/4程度になり、値上げ幅も尋常ではありません。もともと、チーズ好きのお客様の喜ぶ顔を見るのが嬉しくて「ま、いいか」と採算を度外視して置いていました。あまりの負担に「もう無理かも。置くの、やめようかな」と考えているところに「このチーズのプラトーが楽しみ!」というお言葉を聞き、「やっぱり、やめるの、やめようかな」と揺れる乙女(私です)心……。
鳥インフルエンザの影響で、フォアグラも全滅状態です。今キープしている在庫が底をついたら、フォアグラを使ったメニューは幻となり、復活のめども立っていません。こういうときに限って、フォアグラ好きのお客様が集まる集まる!「いつものフォアグラのポアレ、3人分、押さえといて!」とのご指示にあたふたする毎日です。
この値上げの嵐にとうとう抵抗しきれず、サンルスーも4月から料金を改定させていただきました。ご予約の際、その旨をお伝えすると「承知してます。今のご時勢、仕方がないですよ」。
そんなふうにおっしゃられると、「ひょっとしてマリア様では?」とウルッときます。「じゃ、いつもよりお金いっぱい持っていくよ!」なんて言っていただくと、「よっ! ニッポンイチ!」と叫びたくなります。理解あるお客様の寛大さがありがたく、ひたすらこうべを垂れるばかりです。
2年以上に及ぶコロナ禍で、「普通じゃないこと」が日常になるという経験をした我々、毎日のように起こる値上げや納品停止宣告にもだんだん麻痺してきて、いつしかそれが「日常の普通のこと」になってきました。
あれもない、これも値上げ、それはいつ入るかわからない……。もしかしたら、今までが便利すぎたのかもしれません。
「原点に戻れ」と言われているような気がしてきました。ない中からできることを捜す、今あるものにありがたみをを感じる、高品質なものに適正なお金を払う。
「これが人間の本来あるべき姿なのか……」とちょっと哲学的なことを考え、逆になんだかやる気が出てきてしまう、不思議な現象のサンルスーなのでした。
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