シェフ金子、「テリーヌ」が大好きです。作るのも食べるのも、とにかく大好きです。
外食の時、肉系のテリーヌがあると必ず注文します。ここで私はいつも嫌な予感がするわけです。人様の作ったテリーヌを自分なりにいろいろ分析しているようで、普通ならああでもないこうでもないと口に出して言うところでしょうが、元来無口な性分なので、黙ってひたすら考えながら食べています。
結果、私はぼっち飯。お金は2人分払わされているのに、ひとりぼっちでゴハンを食べているようなもので、損した気分になって仕方がありません。
テリーヌとは、一言で言えばテリーヌ型に入れて形作って調理されたもので、肉類の他、魚介や野菜を使ったものも、テリーヌ型で作ればすべてテリーヌ。サンルスーには「ヌガー入りチョコレートのテリーヌ」という、デザートのテリーヌも存在します。
サンルスーはわずか20席ほどの店なのに、多い時はテリーヌだけで4、5種類あります。お客様の間でダントツの人気を誇り、現在はこのご時勢と材料の仕入れの都合でメニューから外れている「魚介と野菜のテリーヌ」という前菜があるのですが、これはシェフ金子に言わせると「何かちょっと違うんだよね」なんだそうです。
シェフ金子が執着し続けるのは「お肉のテリーヌ」です。「そんなに肉のテリーヌばかり何種類も置いてもしょうがない」と文句を言うと、「好きなんだからしょうがない」と言い返してきます。
肉のテリーヌは「いろんな技術のトータルな集合体」とのこと。理想の味をイメージして、お酒を効かせて肉をマリネして、脂やレバーの割合、肉のひき方、練り方をいろいろと試行錯誤しながら仕上げて、3〜4日寝かせて切った時の匂いがたまらないんだそうです。私から言わせてもらえば、「テリーヌ変態オタク」です。
先日、開店当初からずっとサンルスーの定番「パテ・ド・カンパーニュ」を食べ続けているお客様が「ねえ、マスター!(シェフ金子のことです。『失恋レストラン』かと思いました。懐かしい!)俺のパテ(いつもこう呼びます)の作り方、変えた? すごく旨い!」とおっしゃいました。
実はシェフ金子、ずっと同じ作り方だったパテ・ド・カンパーニュを、より自分の好きな味にしようと思い、レバーの分量を増やすなど少し変えてみたところだったそう。「Nさん、毎回食べてるだけあってさすがだな。気づいてもらって嬉しかった!」と珍しく喜んでいました。
お客様商売なのに、お客様に気の利いたことひとつ言えず、ひたすら下を向いて何かを黙々と作るのが好きなサンルスーの代表取締役。うっとりと肉を捏ねるヒマがあったら、そして出来上がった肉のテリーヌをひと口食べて「Superbe(すばらしい)!」とか言って親指を立てている余裕があったら、お願いだからお客様にお愛想のひとつでも言ってほしいものだ、とついつい思ってしまう私なのでした。
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