我々がフランスへ修業に出かけたのは、もう30年以上も前のこと。
ロワール地方のとんでもない田舎で働いていた時、現在は軽井沢でフランス料理店を営んでいる修業仲間(軽井沢の盟友です)と3人で、休日のたびにレストラン巡りをしていました。この経験が、今では我々の宝になっています。
フランスの地方には、考えられないくらい不便なド田舎中のド田舎に、素晴らしいレストランがあります。フランスの底力を感じます。
このレストラン巡りの中で、私が今でもいちばん好きなレストランでのお話です。2ツ星のそれはそれは素晴らしいレストランで、夢のような食事をしました。食後のお茶はエスプレッソの他、紅茶とハーブティーがそれぞれワゴンで恭しく運ばれてきて、自分で選ばせてくれるのです。
私、普段は食後は断然エスプレッソ派ですが、あまりの見事なハーブティーのラインナップに、この日はハーブティーをいただくことにしました。なんとも言えない贅沢な時間が流れました。
この体験がどうにも忘れがたく、サンルスーをオープンした時、わずか12席の小さな店ながら、紅茶とハーブティーをお客様に選んでいただくことにしました。
ハーブティーはパリのハーブティー屋さんのものの他に、アテにならない「効能・処方」がついているのは、私がハーブティーの本を参考にブレンドしたものです。
ある時、おなじみのお客様が初めてお連れくださったお客様に、こう話しているのを聞いてしまいました。
「サンルスーに来たら、ハーブティーを飲まなきゃモグリだよ。ここのマダムはね、前はハーブティーの研究家だったんだよ!」
「……えーっ! 私のこと? 私ってハーブティーの研究家だったの?」心の中で叫びました。でもお客様の顔を見ると、いわゆる世間でよく言うドヤ顔です。お客様の顔を潰す訳にもいかず、「いえいえ」となんとなくうやむやにするしかありませんでした。
すぐに厨房に駆け込んで、シェフ金子に「どうしよう! 私、知らないうちにハーブティーの研究家になってる!」と伝えると、「Mさんに恥をかかせるわけにいかないから、そのままにしておこう」……。我々、いつも万事が事なかれ主義です。本当にできれば消えてなくなりたいくらいでした。
サンルスーでブレンドするハーブティーは、よく言えば「勘」、正直に言えば「目分量」です。小学5年生からかれこれ20年近く通ってくださっている、ある男性のお客様は、ある1種のハーブティー一本槍です。ある時、「いつもの配合と違う」とダメ出しが出てしまいました。私の「勘」が裏目に出た瞬間でした。
あのフランスのレストランのように、年配の素敵なメートルドテルが優雅に運んでくる、ゴージャスなハーブティーには及びもつかないけれど、サンルスーのハーブティー、なかなかの人気者です。
ちょっといい加減な配合と処方は大目に見ていただいて、食後のひととき、ゆったりと選んでいただく時間も含めて、サンルスーのハーブティーをお楽しみください。
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