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カスレとシェフとお客様

6月に店内営業を再開した際、少しメニュー構成を変更したこともあり、今までメインディッシュのほぼ定番だったカスレが、シェフ金子の一存で外れていました。


カスレとはフランス南西部の伝統的な郷土料理で、たっぷりの白いんげん豆と数種類の肉(何が入るかで地域の特色が出る)をトマト味でじっくり煮込み、さらにオーブンでしっかり焼き込んだもの。フランスへ修業の旅に出ていたとき、カスレを食べるためにトゥールーズへ行った、我々にとっても大切な思い出のある一品です。



営業再開後、早速ご来店くださったあるお客様が「今日はカスレを食べたいと思っていたけど、なくて残念」と。とても申し訳なく思い、そのお言葉をシェフ金子に伝えました。次にご来店くださったときにメニューに載せておいたところ、「今日こそはカスレをと思って食べに来たけど、もっと食べたいものがあったので」と、カスレのご注文は残念ながらありませんでした。


メニューに載せるとなぜか、ご注文がパッとしないので、メニューから外す。するとカスレを食べたいお客様がご来店。またメニューに載せるのですが、注文されない……。どういうわけか、呪われたように?この繰り返しが続きました。


実は、カスレは仕込みに結構手間のかかるお料理です。とはいえ、店の都合で押し売りするわけにもいかない。シェフ金子と私の間でカスレ存続をめぐるちょっとしたバトルがあり、結局いったん、カスレはメニューから姿を消すことになったのです。


ところがある日、予約時にカスレを所望されたお客様がいらっしゃいました。恐る恐る確認したところ、意固地になってしまったシェフ金子の答えは残酷にも「Non」、丁重にお断りする羽目に。


それでも気持ちよくカスレのないサンルスーにご来店くださったお客様に、当日になって「一人前ならなんとかできる」と、天邪鬼なシェフから驚きの一言が。できるなら最初から言えばいいのに……(心の声)。


ないはずのカスレがあることを知ったお客様は、それはそれは喜んでくださいました。「カスレってなかなかちゃんと食べられるお店がないから、とっても嬉しい!」と感動的なお言葉まで。


初対面のお客様だったのですが、「申し訳ないけれど、そっくりそのまま、うちのシェフに言っていただけませんか?」とお願いしました。お帰りの際、台本通りにそのセリフをシェフに伝えてくださったお客様。嬉しくてたまらないくせに、私の手前、平静を装うシェフ金子。


12月になるとサンルスーは、ノエルやらおせちやらでてんてこ舞いとなり、仕込みに手間のかかるカスレどころではなくなります。でもなぜかその頃、毎日立て続けにお客様に「カスレが食べたかった」と言われました。この現象、いったいどうしたことでしょう?


年が明けて、OBENTOYAサンルスーのメニューに、なんと「カスレ」の存在が。年末にカスレを食べたくて食べられなかったお客様がすかさず、テイクアウトでお買い上げくださいました。


さらに満面の素敵な笑顔で、シェフに「カスレ、ありがとうございます!」とのお言葉。嬉しいくせに、またもや平静を装うシェフ金子、どうやら改心したようです。


この後、通常の店内営業に戻っても、カスレは必ずメニューに載せてもらいましょう。コツはわかりました。私が言うと逆効果なので、必ずお客様から言っていただくこと!

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