6月18日、サン ル スーは開店29周年を迎え、30年目に突入することになりました。一言で言って、29年なんてあっという間です。
果たして、29年前に比べて我々は成長しているのか? 確実に言えることがひとつだけあります。体だけは間違いなく、横に成長いたしました! 目下、このことが我々のいちばんの悩みです。ちなみに29年前、スーシェフ香田はナント!6歳です!
我々も年齢が年齢なので、これからはもっと自分の体とも向き合っていかなければなりません。ここ数年、大切なお客様や友人が亡くなったり、体を壊されたりするのを目の当たりにすることがことのほか多く、本当にいろんなことを考えるようになりました。 29年前からは、考えられないことです。
自分たちの店と言っても、なかなか思い通りにいくことばかりではありません。私などは
何かにつけマイナス方向に考え、「誰にもわかってもらえない」とすぐ落ち込むクセがありますが、シェフ金子は、万事につけポジティブ思考です。
「確かにわかってもらえないこともある。でも、何かをわかってもらえてる。じゃなきゃ、こんなにずっと通い続けてもらえないし、店も続けられなかったよ」。
おっしゃる通り、その通りです。それは私自身がいちばん痛感していることでした。
シェフ金子は、根っからの料理(それもフランス料理のみ)を作る人だと感じます。 難点は、料理を作るのは心から好きだけど、営業が苦手ということです。
店を運営するにあたって、こんなに厄介な人はいません。自分で言わせていただきますが、私の苦労も、ハンパじゃありません。
一方で、私はいつも、自分にこの仕事が合っているのかどうか、いまだに葛藤しています。シェフ金子があまりにも無器用なので、助けてあげているつもりなのですが、当の本人は私がやりたくてやっているとおめでたく思い込んでいて、この私の慈悲深いボランティア精神を全く理解していない模様、困ったものです。
そんな悩みを親しい人たちに話すと、「てっきり楽しんでいるのかと思った」と異口同音におっしゃる。私にとっては有難くも、これこそ意外な反応です。
「私のこと(楽しそうに演じている)「女優」って呼んでください!」と、つい調子に乗って言ってしまうと、すべての人が面食らいます。
親しい友人やお客様が、誇りをもって仕事をして、そしてプライベートも充実して過ごしている姿を見ていると、「皆、生き生きして楽しそうでいいなあ」と羨ましくなります。
私はと言えば、朝から夜中まで日々時間に追われて仕事をして、いつもいつも支払いのことばかり考えていて、「一体、私の人生って何なんだろう?」とつい思ってしまいます。隣の芝生は青く見えるものなのか?
小学校1年生の娘さんを持つあるおなじみのお客様ときたら、「うちのH(お嬢ちゃん)が高校生になったら、サン ル スーでバイトをさせる! 美味しいマカナイ、宜しくお願いします!」と生まれた時から決めていて、「ちょっとちょっと、一体、いくつまで働かせる気?」と言い返しているわけですが、ここ数年、お客様からじーんとくるような言葉をいただくことが、本当に多くなりました。
「美味しいものを食べさせてもらうために、休む時はちゃんと休んでください」
「絶対に無理しないで、細く長く続けてください」
「私の誕生日の風景に、サン ル スーがないなんて考えられない」
こんな泣かせるようなセリフ、他にあるだろうか? 店をやっていなかったら絶対に出逢うことのなかった、素敵な人達。
私、何も持っていないけれど、すごい財産です。私の向き不向きはひとまず、あっちに置いときましょう。
満29歳を迎えたサン ル スーと、善良で心から温かい自慢のお客様に「カンパイ!」
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