サンルスーにはさまざまな定番料理がありますが、比較的メニューの下の方に表記されているからでしょうか、案外気づかれていない定番があります。
それが「鴨むね肉の燻製と削ったフォアグラのコンフィ・クレソン・ロケットのサラダ」、略して「鴨くんサラダ」です。
苦味と香りの強いクレソンとロケット(ルッコラ)の上に、薄切りにした鴨むね肉の燻製を散らし、上からマンダリンというスライサーで、コンフィにして凍らせたフォアグラ(わりと手がかかっています)を削り節のように削って、ふんわりとのせたサラダです。
フォアグラを削る時、マンダリンの鋭い刃で、過去に何人ものスタッフが自らの手を切ってしまったというとても危険なサラダでもあります。
サンルスーをオープンしてから行った、食べ歩きフランス旅行でアルザス巡りをした時、コルマールというそれはそれは可愛らしい街にある素敵なレストランで食事をしました。あまりに昔すぎてうろ覚えなのですが、私が注文した前菜は、今でいうサラダチキンのような、スライスした鶏むね肉の上に鶏の白レバーを削ったものがのっていたサラダでした。
「なかなか小洒落たサラダだな」と思いながら食べていると、「貰った!」という言葉。いったい何を貰ったのか知らないけど、どうやらシェフ金子「貰った」ようでした。
日本に帰って早速作ったのが、今や定番となった、この「鴨くんサラダ」。コルマールのレストランで食べた前菜よりもずっと垢抜けていて「この人、野暮ったくてボンヤリしてるけど、なかなかやるな」と妙に感心したものです。
おなじみのお客様が早速このメニューを見つけ出し、すっかりお気に入りに。以来、ご来店のたびにご注文くださる定番の前菜になりました。
また、ヘトヘトに疲れ切ったものすごくハードな仕事の後、サンルスーにご来店くださった別のお客様は、新顔メニューの「鴨くんサラダ」を食べて、「これ、私のパワー飯。元気になりたい時食べる!」とおっしゃいました。ありがたくて私も元気になり、そしてこのサラダが大好きになりました。
営業中にテーブルに運んでいると「あれは何ですか?」と他のテーブルのお客様から聞かれるのは、いつもこの「鴨くんサラダ」です。そしてご注文の際「かつおぶしのかかったヤツ」と言ったら、この「鴨くんサラダ」のこと。
しかしながら、また雲行きが怪しくなってきました。鴨が終売だと業者さんが言い出すし、フォアグラに至っては、昨年夏ごろから貴族か大名が食べるものになってしまった、と思っていたら、昨年末には王様か将軍しか食べられない価格に跳ね上がってしまいました。
地味に人気の「鴨くんサラダ」。また幻のメニューになってしまいそうな気配が濃厚になってまいりました。もしメニューに載っていたら「J'ai de la chance!(私ってラッキー!)」と思って、どうぞお召し上がりください。
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